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COMMONS CAFE <コモンズカフェ>

開催日:2016年04月27日

[第17回]同志社大学 文学部教授 圓月勝博「イギリス文学に親しむ―教養に満ちた学生生活を送る方法―」

第17回コモンズカフェ開催記録

<はじめに>

 今回のコモンズカフェには、文学部の教授であり、本学の副学長でもある圓月先生をお招きしました。先生は17世紀のイギリスの英文学、とくに詩について研究されています。文学部以外からもさまざまな学部から参加者が集まりました。第17回写真01

<見るまえに跳べ>

 圓月先生は高校生の時、大江健三郎『見るまえに跳べ』(新潮社)をきっかけに、文学に興味を持ったそうです。先生の話はウィスタン・ヒュー・オーデン(1907-1973. イギリス生まれ、アメリカに移住したモダニズムの詩人)の紹介からはじまりました。そもそも大江健三郎の書『見る前に跳べ』はオーデンの詩、”Leap Before You Look” から採られています。

 圓月先生は、”Leap Before You Look”で用いられている技巧を、我々にわかりやすく説明してくださいました。例えば、様々な韻の踏み方が使いこなされているのだそうです(交差韻、対韻といった言葉が登場しました)。「日本の詩にはあまりみられないが、英語の詩ではパズルのように言葉を組み合わせ、上下左右対称の構造を持たせることがある。これは面白い、だから原文で理解してみたい」と思ったそうです。

 もちろん、パズル的な要素だけが詩の面白さ・奥深さの理由ではありません。詩人の背景を調べていくことも面白いことだとおっしゃいました。たとえば、この詩ひとつをとっても、オーデンの感情が見えてくるのだそうです。当時、あまりにもオーデン自身が英国内で有名人になりすぎ、それに嫌気が差して米国に渡ったこと、本人が労働運動に深く理解を示していたこと(執筆当時、ブルックリンに住んでいたそうです)などがあったそうで、それらがこの詩の背景にあるそうです。

 <詩が生まれた社会文化的背景を知る>

 とくにオーデンは哲学者キェルケゴールの影響を強く受けています。”Leap Before You Look”を読み解いていくと、表面的には楽しそうだけれど、深い部分には孤独や他人には触れられない要素が盛り込まれている。更に、現代文学の特徴である性愛、とくにこの詩にはオーデン自身のホモセクシュアリティが裏に刻まれているそうです。そういった、ある意味「キワドイ」面がこの詩には盛り込まれていると圓月先生はいいます。短い詩ですが、さまざまな解釈ができる。先生による鮮やかな解説によって、この文字列の持つ深みを垣間見ることができ、参加者一同ため息をつきます。第17回写真02

 最近では、当時の洋雑誌が容易に入手可能になったと圓月先生はおっしゃいます。以前、「どうしても見たい、その一念でアメリカまで見に行った」雑誌の記事が、最近ではインターネット上にあがっていることがある。だから、みんなもラーニング・コモンズを使って、どうやったら調べたらその記事を発見できるか、ワイワイ話し合って、学んでいってほしい。また、学生生活は「rejoice」することが一番だ、と圓月先生はおっしゃいます。rejoiceはオーデンを研究していると関連して出現するワードのようで、実際に”Leap Before You Look”の第5パラグラフにも出てきます。嫌々受けた試験の内容は2時間もしたら忘れてしまうけれど、ほんとうに面白いこと、実際に探しまわって手に入れた面白い雑誌(今回取り上げてくださった雑誌はアメリカの古書店で30ドルだったそうです)、こういうものは絶対に忘れない。そう新入生に向けてエールを送られました。

 <参加者との質疑応答>

 当日の質疑応答の内容共有は、参加者だけの特権ですが、せっかくなのでいくつか特徴的な話題をご紹介します。

 まず、研究とrejoiceについての話になりました。長年研究を続けておられる先生ですら、ご専門のミルトンだけに限定していると煮詰まることがあるのだそうです。そういうときには、別の作家を取り上げる、別の視点に立って研究することで、また研究が進むとおっしゃっていました。「若いころは、論文以外のことをやっていると罪深い気がすることもあると思う。でも、視点を複数持つと、さっと目の前の霧が晴れたりする」。これには大学院生たちが深く頷いていました。

 4月だからでしょうか、文学部の学生からの「進路が全然見えてこない」という悩みに対し、色々と親身になって相談に乗っておられました。翻訳は、それのみでは食べていけない場合も多くある。けれど、今の段階から細かく思い悩む前に、まずは学生生活でできることをrejoiceすることが大事だ。そうしているうちにスキルも身につくかもしれない。そのスキルは自分に嘘をつかない。…楽しんでやっていれば、なんとかなるんちゃうかな。僕はそういう点については変に楽観的なんだよね。お答えになってる?(笑)という返事に、質問者は頷いていました。第17回写真03

 「本を読むというということはどういうことか」……最近、色々と考えすぎて本を読めなくなってしまったという参加者がいました。簡単そうで複雑な質問に対して、圓月先生は、本の特性を紹介しながら、温かいアドバイスをしておられました。すぐに役に立つ情報を得るには、昔と違って今はネットなどのよいツールがある。しかし、本だと自分に問い続けるための読書ができる。手元に置いておくことで、長期にわたって読み込める。数年後にふと読み返すと、以前にはなかった気づきが得られることもある。このように、本は、読者とともに成長する。キザなことかもしれないけれど、ゼミ生には「大学を卒業するまでに、1冊でも2冊でも、大学後に再読してみようという本が見つかれば、それは大学生活で得た財産だ」と伝えているそうです。

 今の時代の教養とは何か、という今回のコモンズカフェのタイトルに関連する問いに「ラーニング・コモンズの方がタイトルをつけて下さって、看板見たときに帰りたくなった」というくすぐりが。一同爆笑です(ただし、タイトルをつけた当人がポリポリ後頭部を掻いていたのを筆者は目撃しました)。

 圓月先生は「今は、ぼくらの若いころには出来なかったことが一瞬でできる。メリットは活かそう」とおっしゃいます。先生が研究されている17世紀では、手稿が重視されていたのだそうです。つまり活字を読むような人間は品が無いと軽蔑されていたそうです。当時の作家には、活字を馬鹿にしつづけた結果、歴史に残らなかった人もいたそうです。一方で新しいメディアを利用し、歴史に名を残した作家がいたことも紹介しておられました。それらをまとめて、今後は時代を映した新しい教養が生まれていくんじゃないかな、ネットにはくだらないものもいっぱいあるが、素晴らしいものもいっぱいある。だから重要なのは自身に見抜く目を持つことなんだ、と、ポジティブな発言をしておられました。

 <学生生活を「rejoice」する>

 オーデンの詩の話に戻りましょう。

The sense of danger must not disappear:

 これは”Leap Before You Look”の一行目です。圓月先生はこの一行を引用しながら、危険の感覚を無くしていない?入学前にはワクワクしていたけれど、大学に慣れてきて適当に学生生活を過ごそうと思っていない?好きこそ物の上手なれ、だから跳ぼう(leap)、そういうrejoiceの話を強調しておられたのが印象的でした。

 学内外の研究者たちをお招きし、授業とはまた違った形でざっくばらんに会話ができるコモンズカフェ。次回は、選挙権年齢が18歳以上になったことを見据え、法律の研究者である政策学部教授大島佳代子先生をお招きします。お楽しみに!

 

(文責・岡部)

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