開催日:2015年05月29日
[第12回]同志社大学 スポーツ健康科学部 藤澤義彦「スポーツと大学から世界をみる」
第12回 コモンズカフェ 開催記録
<はじめに>
2015年5月29日、第12回目のコモンズカフェが開催されました。今回はスポーツ健康科学部より、藤澤義彦先生をお招きしました。今回は、「スポーツ と大学から世界をみる」というタイトルで、先生のフランス留学経験、スポーツと国際化のあり方、大学とスポーツの関係など、貴重なお話を聞かせていただき ました。
<国際化とは何か>
国際化とは、何を意味しているのでしょうか。単に欧米化することでしょうか。それとも、グローバル化と同義でしょうか。「国際化はどことなく受け身的な意 味を持っている」と藤澤先生は述べます。つまり、今は言語的にも文化的にも日本が閉鎖的で、より多様にならなければならないという意味が含まれています。 とりわけ国際化が意味しているのは、日本人は他の国の人々に比べて語学力が劣っており、とくに英語力を身に着けなければならないことと関係しています。こ れからの時代に求められる英語力とは、たんに会話ができるだけではなく、交渉力を持っていることです。さまざまな国や地域という背景の異なる人々が集まる 中で、他人の意見を受け入れ、また自分の考えを主張していくことが国際化する社会の中で必要とされています。人々との交流の中で、外国や外国人を知るとい うよりも、日本や日本人の立ち位置を知ることができるのです。これこそが国際化の意味するものだと藤澤先生は言われます。
<フランス留学の2年間>
このような国際化の意味を語ってくださる藤澤先生は、海外経験豊富な先生です。もともと先生は同志社大学経済学部に在学しておられ、フェンシングで活躍 し、卒業後は保健体育の先生になる予定だったそうです。ところが、あるとき自宅にいると、日本フェンシング協会から電話があり、「フランスで勉強をしない か」というお話をもらったそうです。そのお話を快諾したことから、先生の海外経験が始まりました。
フランスへは政府派遣で1981-1983年の2年間の滞在でした。留学の目的はフランス国立スポーツ・体育研究所に入学し、フランス政府の国家公認教育 者資格(BEE2)を取得することでした。その資格はスポーツ科学やスポーツ指導の理論等に関するもので、フランスのトップクラスのスポーツ指導者を養成 するためのものです。この資格は取得が大変困難で、藤澤先生が取得された後、日本では誰も取得していません。
難しい資格ですから、藤澤先生は2年間日本への帰国を許されず、先生ご自身も資格を取得できない限り帰国できないと思って必死に勉強に集中したそうです。 留学するくらいだからフランス語は堪能だったのではと思われがちですが、学校が始まって辞書を引きながら勉強されたとのこと。昼間は授業を聞きつつ、夜遅 くまで必死になってやった、と藤澤先生は振り返ります。フェンシングの実技自体はフランス人選手と伍して戦うことができたそうですが、座学になるとわから ないことばかりで、周りの学生にずいぶんと変わった学生に思われていたようです。しかし、努力が功を奏し、徐々にフランス語を習得され、授業もわかるよう になり、2年後にはBEE2を取得できたそうです。
この経験から学んだ語学 取得の秘訣とは、「とにかくその世界へ飛び込むこと」と藤澤先生は言います。海外に行くかどうか迷って日本にいるうちは、前に進みません。もちろん、日本 である程度学んだうえで行くほうが、行った先での適応が容易となるのは当然です。しかし、実際に現地の人々と会話をしたり、交流したりして身に着けられる 語学は、まったく質が違うと言います。交流や語学を身に付ける過程で得られる最大のことは、その国の文化や言語を知ることにも増して、自国である日本や日 本の文化、日本人の立ち位置を知ることにあります。言い換えれば、日本の良い面や悪い面、特徴や改善点を知ることができるのです。この経験から同志社の委 員会等で、藤澤先生は外国語で交渉ができる人物の育成を目的に据えるべきとの主張をなさったそうです。単に会話ができるだけでなく、これからは外国語でも タフな交渉のできる人材が求められているのです。
<大学教員およびフェンシング指導者として>
帰国後、藤澤先生は本学の教員になりました。また、フェンシングの指導者として日本のナショナルチームの監督やコーチを務められたそうです。当時、年に4 か月は海外に遠征をし、残りの8か月で授業と研究を行ったこともあったそうです。藤澤先生の指導の下で、同志社からフェンシングのオリンピック選手4人が 生まれました。
藤澤先生はスポーツ健康科学部の学部長を担当されまして、スポーツ推薦の学生にも一般学生と同じように勉強を課すことは、当然のこととしておられたそうで す。というのも、部活動の成果で入学してきた学生に対しても、学業が学生の本分ですから、勉強が優先となります。あくまでも部活動は課外活動であるという 考えが先生にはあります。
この考えはフランスでの留学経験時代に基づいてい ます。フランスではスポーツの社会的地位が高いです。また、スポーツは社会で独立しているのではなく、政治、文化、社会と密接にかかわっています。そのた め、スポーツ指導者や選手には、実技だけでなく、社会人として相応の専門知識が求められています。もし実技だけをしたいのであれば、フランスでは大学に行 かず、働きながらスポーツを行います。大学に行くという選択肢は、実技に加えて、専門知識を学ぶためにあるのです。このことを踏まえて、藤澤先生は大学で も文武両道を目指しています。それは、日本社会でスポーツの地位を高めるためにも必要なこととおっしゃいます。
<日本のスポーツの地位と課題>
日本でのスポーツの地位や理解は徐々に高まっているけれども、30年ほど前は、まだ浅かったと先生は言います。たとえば、1979年のソ連のアフガン侵攻 により、アメリカが1980年のモスクワオリンピックをボイコットしました。日本のスポーツ関係者の多くはその背景を理解していなかったそうです。スポー ツが政治と密接にかかわっていることをまだ理解していなかったのです。実際に選手として、オリンピックの準備をしていた先生も、日本がボイコットを決めた ニュースをテレビで知って愕然となりました。
現在でもスポーツの地位を上げ るための課題がいくつもあります。たとえば、スポーツマンがTPOにあった装いをすることです。選手が遠征に行く際、よくジャージを着用しますが、藤澤先 生は、ジャージはあくまで練習時の服であって、本来電車に乗ったり、授業に出たりしたりする時の服ではないとおっしゃいます。練習とそれ以外のけじめをつ けるべきなのです。また、スポーツの指導方法の問題もあります。日本ではスポーツは学校の部活動と深く結びついています。これはアメリカ型で、ヨーロッパ 諸国はクラブチーム型だそうです。クラブチーム型では、学校と独立して、地域社会の中のクラブチームがあり、大人から子供まで一緒になって活動します。そ のため同じ指導者に長期間指導してもらえることになります。競技別に全国共通の指導方針やレベル評価が作られており、クラブチームを移ったとしても困るこ とがありません。日本で特に問題なのは、中学・高校・大学の各段階の連携が悪く、長期的視野に立って子どもの成長に合わせた指導ができていない点です。日 本オリンピック委員会は最近になってクラブチーム型に倣って、全国共通の指導方針やレベル評価方法を作ろうとしているところだとおっしゃいます。
<まとめ>
以上のように、藤澤先生に国際化の意味をスポーツの分野から教えていただきました。スポーツはオリンピックをテレビで見たり、フィットネスクラブで運動し たりするということだけではありません。スポーツの国際性、社会性、各国でのスポーツの窓口や指導法の違いまで、大変興味深いお話をしていただきました。 参加者からの質問も多く、活発なコモンズカフェとなりました。
当日、藤澤先生には京田辺キャンパスから今出川キャンパスまでお越しいただきました。最後に、京田辺キャンパスにも良心館ラーニング・コモンズを超える学習施設ができることを熱望されていたのが、とても印象に残りました。
構成と文章:藤本憲正(LA)