開催日:2015年07月07日
[第13回]同志社大学 生命医科学部 米井嘉一「アンチエイジングと学生生活」
第13回 コモンズカフェ 開催記録
<はじめに>
今回のコモンズカフェでは生命医科学部教授の米井嘉一先生をお招きしました。先生のご専門はアンチエイジングです。アンチエイジングというと、大学生の自分には関係ないのではないかという疑問が出るかもしれませんが、米井先生は「そんなことはないよ」と口火を切られてからお話をはじめられました。「今すぐではないが、20年、30年後に関係していく重要なことなのだ」と米井先生はおっしゃいます。
アンチエイジングとはなんでしょう。目標は不老長寿ではありません。人間には寿命の限界があるのですから、生きている間、健康に幸せに生きようというのを学問的に、医学的に問うていくのがアンチエイジングの目標です。「元気なほうが快適です」。すなわちQOL(Quality of Life)の向上ということだそうです。そこで、単に寿命を伸ばすということだけでなく、「健康長寿」を目指すことが必要だと米井先生は言います。日本の平均寿命は男性80歳、女性86歳と世界トップレベルですが、この数値には「寝たきり」の数字が含まれていることを忘れてはなりません。ここで米井先生はあまり耳にしたことのない「健康寿命」というキーワードを提示されました。これは元気に一人で動くことのできる健康な状態によって寿命を示したものです。日本の場合の健康寿命は男性が72歳、女性73歳であって、アンチエイジングメディスンの目標は、平均寿命と健康寿命の差を縮めることです。
<老化のメカニズムを追求する>
生活習慣の改善は食育・知育・体育によって支えられるようです。食育はどんなものを食べたらいいか、知育は心・頭の問題、体育は身体を動かすことです。米井先生は知育がもっとも大事だとおっしゃいました。「病は気から」ともいわれるように、「老化も気から」といいます。最近では、「キレイも気から」といわれているそうです。とにかく、やる気が大事なのです。やる気があってからはじめて、色々健康に関係することをやろう、という気持ちになるからだそうです。
また、老化には成長と同じように個人差があります。老化のスタートラインは30歳だといわれているようです。しかし、スタートラインからいきなり衰える人、ゆっくり衰える人、筋肉から衰える人、脳神経から衰える人など、さまざまなパターンがあるそうです。ゆえに、個々人にあわせた老化の危険因子の診断・把握が重要になってくるのです。
アンチエイジングの基本は生活水準の改善となります。それだけに限らず、加齢によってはサプリメント等で栄養を補っていくのもいいそうです。ただし、米井先生はサプリメントの盲目的な礼賛には疑問を投げかけます。TV等での宣伝を鵜呑みにして飲むのではなく、個々人にあったものを飲むことを推奨されていました。
米井先生はここで美容医療の大事さにも言及されました。人間には外見だけでなく中身もあります。例えば、「シミ取りレーザーで表面的に治療しても、中身のアンチエイジングをきっちり行っておかないと数年後くらいにまた出てくる。あるいは、シミを『チャームポイントだ』とおだてても、なんだかイヤだと思っている人に対して、だったらとってあげちゃったほうがいいでしょう」と米井先生は言います。シミを取ったら、外出する気持ちが湧いてきて、よりよい生活習慣のサイクルができる例などもあげられていました。米井先生の研究室では、化粧品やヘアケアなど、さまざまな研究をされています。
<アンチエイジングはいまの自分にも関係がある>
30代以降同窓会へ行くと、年をとった人とそうでない人とで、はっきりと老化の差がわかるそうです。70~80代に入ると、寝たきり予備軍がふえていくのだそうです。寝たきりになってから健康増進するのではなく、「40~50代から健康増進をすることで予防していくことが大切」だと米井先生はおっしゃいました。
参加者らの頭に浮かんだ(であろう)40代なんて、まだまだずっと先の話では?という疑問を打ち消すように、米井先生は20~30代の衰えについて、生殖機能を例に言及されました。加齢に従って男性と女性両方が原因で妊娠率は低下するのだそうです。卵子にかぎらず、精子も衰えていくのだそうです。不妊症とは望んでも一年間子どもができない状態を指しますが、これが社会的にも話題になっています。生殖医療の成功率は100%ではないと米井先生は指摘します。たとえば、女性の体外受精妊娠率については37歳以降、急激に成功率が5~10%にまで落ちてしまうのだそうです。原因は男性、女性の両方にあるのだそうです。「人生設計を考えるために、体外受精妊娠率について男性も女性も必ず知っておいて欲しい。後悔しないために。この事実は、必ず現場からの声として、どこかで伝えておかないといけない」という志のもと、米井先生は講演活動等も行っていらっしゃるそうです。「気持ちのいい話じゃないかもしれないけれど、それが現実。知っておかないと選択を間違えちゃう可能性があるからね」という言葉が一同の胸に響きました。
<小児科医からの声>
アンチエイジングは「いまの」自分にもつながっているのだ!と一同深く納得したところで、さらに米井先生のお話は子どもの話にも広がっていきます。最近の子どもは運動不足、たとえば下手したら生まれてすぐにタブレットやスマートフォンを与えられるなど……。「『こういうのはよくない』とお母さんになる人、おばあさんになるひとに伝えないといけない」と米井先生はおっしゃいました。もしかしたら10~20分くらいならいいかもしれない。しかし、それ以上だと睡眠に問題を起こすかもしれません。たとえば、メラトニンは眠りの質に深くかかわる物質ですが、タブレットからはメラトニンを止めてしまうブルーライト(青い光)が出ています。ほかにも、寝ている子どもを、寝ているからといって背負ってコンビニを行くこともやめたほうがよいと米井先生はおっしゃいました。明るいコンビニの店内はまぶたを閉じていても光が入ってくるからだそうです。それ以外にも、子どもの頭蓋骨は薄いので、頭蓋骨を通じて光を感じることもわかっているのだそうです。冷蔵庫の中も明るいので、夜中の冷蔵庫をあけるのも睡眠の質にかかわってくるそうです。
京田辺キャンパスに通う人にはお馴染みですが、いわゆる「田辺坂」と呼ばれる強烈な坂があります。「毎日その坂を歩く人と、バスに乗って楽をする人では、毎日歩く人のほうがいいことがあるよ」と米井先生はおっしゃいました。先生は万歩計ではなく、三次元加速度センサーを身につけて、自分の身体活動等を把握しておられるのだそうです。「運動といっても、日々歩いたり、家のことをしたり、とにかく体を動かすことが大切だよ」と米井先生は参加者にアドバイスをされました。
アンチエイジングを学ぶことは、今後の人生・健康の上がり下がりを見極めるために大切なことです。煙草はなぜやめたほうがいいのか。妊娠中に体重が増加することを忌避して食事をとらないと胎児にどのような影響が出てしまうのか、など。「アンチエイジングを学ぶことは、自分がどんな人生を歩むのかを見極めることにつながるのです」と米井先生は、まとめられました。
<質疑応答編>
後半は質疑応答です。アンチエイジングの先生なので、美容や健康に関する質問が活発に寄せられました。
Q1 ドクダミ茶の効能として糖化ストレスに対しての臨床結果が出ている?
A1 出ています。
Q2 朝ごはんはたくさん食べた方がいいのか?食物繊維をとる程度にとどめたほうがいいのか?
A2 朝ごはんをどれだけ食べるかはその人の生活・仕事にもよります。腸内環境は長年自分のお腹で飼っているので、突然食生活を変化させることはお腹がびっくりすることになります。玄米などはよく噛まないと消化不良になってしまいます。
「ダイエットであっても、『売れる』ために極端なことを言っているダイエット法もあるから注意が必要」といったお話もありました。
やる気を出すためにはどうしたよいか?という根本的な質問に対しては、「やる気のある人から刺激をうけることが大切。何もしないことが一番だめです」と米井先生はおっしゃいました。「もっともやるべきことができなくても、少しずつ手をつけることが大事。怠け者には怠け者流のやり方があるのです」というコメントをされ、一同深く納得しました。
<おわりに>
最後に、米井先生は2011年にサイエンス誌に掲載された”Happy people live longer”という記事に言及されました。これらはハッピーサイエンスといわれ、現在、幸福に関する研究が進んでいるのだそうです。Happinessは周りに広がります。
人間だけでなく、ハッピーなオランウータンは長生きしているということも証明されているそうです。「学生生活を通して、ハッピーを追求することを考えて欲しい」というのが米井先生の願いなのだそうです。
アンチエイジングとは、美容といった観点にとどまらず、もっと深い視点を含むものなのだ、ということがよくわかる60分でした。
2015年度春学期のコモンズカフェは今回で終了となります。次回のコモンズカフェは秋学期に入りましたら開催します。引き続き、京田辺キャンパスの先生をお呼びする予定です。毎回、参加者しか得られない知的好奇心が震える話が飛び出す貴重な場となっています。皆さんの積極的なご参加をお待ちしています。
構成と文章:村田陽(LA)・岡部晋典