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COMMONS CAFE <コモンズカフェ>

開催日:2017年11月13日

[第26回]同志社大学 神学部助教 木谷佳楠「あなたの知らないアメリカ映画の秘密」

第26回コモンズカフェ開催記録

<はじめに>

 今回のコモンズカフェでは神学部の木谷先生をお招きしました。木谷先生は神学部の若手教員であり、日本基督教団の牧師でもあります。また最近ではキリスト新聞社から『アメリカ映画とキリスト教-120年の関係史』を上梓されています。

コモンズカフェ木谷先生01

 今回のカフェでは「あなたの知らないアメリカ映画の秘密」というテーマでお話しいただきました。

<アメリカ映画の構造>

 木谷先生は最初に口火を切ります。「アメリカ映画はだいたい似通ったパターンで構成されています。その理由は何だと思いますか?」

 先生によると、それは①脚本の構造が同一であること、そして②米国の背景にあるキリスト教的な価値観があることがその理由とのことです。

 アメリカ映画の脚本は3幕構成だと木谷先生はおっしゃいます。

 第1幕では敵から主人公に対して何らかの攻撃やアクションが起きます。それに加えて、主人公が克服すべき「欠点」が露呈されます。主人公が気弱だったり、恋愛映画だったら主人公の異性を見る目がなかったり……という欠点から物語がはじまります。

 第2幕は、主人公が先に露呈された欠点を克服するための特訓を行い、それに伴う葛藤が描かれます。そして欠点を克服した主人公は、第2幕の最後に敵に立ち向かいます。第3幕ではバトル・シークエンスがあり、主人公は敵に打ち勝ちます。この3幕構成はアクション映画でも、法廷映画でも、恋愛映画でも全て同じです。

 映画に使用する脚本のフォントやマージン(余白)は決まっていて、だいたい1ページが1分で計算できるようになっています。映画全体の時間を4分割して、第1幕と第3幕はそれぞれ1/4の時間、第2幕は1/2の時間を費やすことになっています(例えば2時間の映画であれば、第1幕と第3幕は30分、第2幕は1時間になります)。これらを説明した本はたくさんあるけれど……と木谷先生はおっしゃいまして、その後、先生のご研究の核心的な部分に入っていきます。

<アメリカ映画とキリスト教>

 2015年のデータによると、米国のクリスチャン人口は約75%です(なお日本の場合は約0.8%)。こういうマジョリティーが持つ宗教的価値観をもとに映画が描かれるとなると、ヒーローがイエス・キリスト的だったり、罪を犯したものは必ず罰を受ける勧善懲悪のつくりになったりしているとのことです。イエス・キリストは「神の子であり、人の子である」ため、イエス・キリストをモデルにしたヒーローたちも、強いだけではなく人としての弱さも出していると先生はおっしゃいます。

「ヒーローは悲しい面も持っています」

 キリスト教は「はじまりがあり、終わりがある」という世界観を持っています。これも映画の価値観に反映されており、ゆえに終末を描くような作品が多いと木谷先生はおっしゃいます。2010年に行われたPew Research Centerの調査によると、実際に2050年までに終末が訪れると考えているアメリカ人は41%いるそうです。

 アメリカの映画産業は主にユダヤ系の移民が起こしたものです。移住した当時に職業選択の自由がなかった彼らは、劇場経営に乗り出します。寄席演芸からだんだんと映像を見せるようになったといいます。ユダヤ系移民が成功した産業の事例ひとつだったといえます。

 やがて興行成績を伸ばすため、上映する影像はより過激化していきます。今も昔も手っ取り早く売れるのは性的・暴力的な描写。それに対し、ユダヤ系劇場主たちの成功を快く思わなかった一部の人々は、「まじめなクリスチャンのモラルを低下させる映画は『よろしくないもの』である」と、彼らのキリスト教的価値観に基づいて異議申し立てをおこなっていきました。そこから映画の検閲がはじまる……とのことです(1934年~)。度重なる抗議運動に嫌気がさして、映画製作者たちは映画制作の現場を東海岸から西海岸のハリウッドへ移したのです。

<映画製作倫理規定>

 キリスト教的な視点から制定された映画製作倫理規定が作られていきました。全12項目のコードがありますが、そのうち9項目は性的な項目です。(女性に対して)体のラインがわかるような服は着せてはならない、離婚を美化してはならない……等。この規定を作ったのもキリスト教の司祭だったそうです。

 検閲が始まると女性の服装もきちっとしたものになります。しかし、それはカトリック教会の司祭が求めていた、「清楚な」女性像を念頭に規定がつくられてしまったものなのかもしれないと見解を提示されました。実に示唆的です。ここで木谷先生の前半のお話は終了しました。

<質疑応答から>

 後半は質疑応答です。いくつか印象的な議論を抜き出しましょう。

 これまでのディズニー映画で主人公が女性であれば、敵も女性である場合が多かったのです。年を取った醜い魔女などがそれにあたります。しかし最近……とくに『アナと雪の女王』以降、ディズニーの悪役の姿も変わってきたといいます。なるべくステレオタイプ化を避け、多様性を映画に反映しようとハリウッドも変わって来つつあるとおっしゃいます。

 ホラー映画の作り方についても言及がありました。ホラー映画で犬はなぜよく殺されるのでしょうか。それはホラー映画が一般的な映画のルールを逆にした作りをしているからです。一般的な映画では愛玩動物の犬は殺しません。興行成績に影響するからです。同じ理由で子供や母親も殺されません。その一方で、人々の恐怖心を掻き立てるホラー映画では、犬が殺されたり、子供が悪魔だったり、女性が怖い目に遭ったりするのです。

 1960年代に入るとキリスト教的な検閲が減少したわけですが、そのきっかけは何かという質問が出ました。これに対して「1960年代から刺激的な映画がヨーロッパからやってきたことが大きい」と木谷先生はおっしゃいます。1966年に検閲は終わるのですが、その後に現れたのが現在にも通じる「レイティングシステム」となっていきます。

 

 従来の検閲は映画を切り刻み「全員が見られる」ものにしたのでした。一方で今のレイティングシステムでは見られる年齢等を設定(PG-13とか)したという意味で観客に選択肢の自由を与えたともいえます。しかし、レイティングの基準自体もキリスト教的倫理に基づいているともいいます。例えば聖職者が悪人として描かれているとレイティングが厳しくなるといったことにあらわれています。

コモンズカフェ木谷先生02<おわりに>

 さまざまな盛り上がりを見せましたが今回のコモンズカフェ。映画を普通に見ているだけでなく、その裏の構造に注目すると、より立体的に映画が浮かび上がってくることが分かるひとときでした。

 一方で未見の映画のネタバレを聞かないように耳をふさがなければならないジレンマも……!

 映画という私たちの身近な存在となった題材をもとに、ご専門の神学の立場からアメリカという姿をも描き出す木谷先生のご研究・ご見識に感嘆するひとときとなりました。


 次回にコモンズカフェでは,免許資格課程センターの佐藤先生をお招きします。「SNS受け」をする研究とは何でしょうか?

 お楽しみに。

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