開催日:2019年04月25日 今出川
[第32回コモンズカフェ]経済学部助教 大谷実「新学期が憂鬱な貴方へ ―ドイツにまつわる異文化の覗き穴―」
第32回コモンズカフェ開催記録
<はじめに>
2019年4月のコモンズカフェでは、経済学部の大谷実(おおたに・みのる)先生をお招きしました。大谷先生のご専門は近代ドイツ社会経済史で、マイノリティに対する政策展開を手掛かりとして、当時のドイツ社会・経済の有り様を明らかにされています。
今回のカフェでは「新学期が憂鬱な貴方へ」というテーマでお話いただきました。
<憂鬱を乗り切るために>
新学期が始まり、授業もバタバタしはじめる頃、大学に行くのが嫌になったり、進路選択で憂鬱になったりすることがあります。「これからどうしよう?」と悩む人もいます。そんな時、どうすればいいのでしょうか。
先生から4つのアドバイスがありました。
① やらなければならないことを100%頑張ろうとしなくても、最低限やって逃げても構わない。ある程度やった後は、自由でいよう。4年間を義務に縛られすぎないように過ごしてほしい。
② 「何をすればいいかわからない」人は、「面白いな」と感じるものを大切にしてほしい。興味・関心は勝手に育ってくるものではなくて、育てるものです。「面白いな」を丁寧に世話して大切にしていくと、やがて自分の一部となり、アイデンティティと切り離せないかけがえのないものになります。
大谷先生はドイツ語が得意ではなかったそうですが、「この国ともう少し関わりたい」というドイツへの強い関心を大切にされることで、今のお仕事につながったのだといいます。
③ 知識をつけて初めて味わえるものを、大切にしてほしい。体験と勉強とが相互作用しあって、より良くなっていく。
④ いやになって大学を離れても、自分を見つめ直してもう一度勉強したいと思ったら、気軽に大学に戻ってきてほしい。大学は誰に対しても開かれている場所です。人生はこうと決めたらこうするしかないという人生ではなく、試行錯誤して蛇行しながら生きる方が楽しいのではないでしょうか。
大谷先生ご自身も一度会社勤めを経験してから、紆余曲折あって現在に至っているそうです。
<異文化のすすめ>
大谷先生はかつてアカデミックサポートエリアでラーニング・アシスタント(以下LA)を勤務されていました。当時、ほかのLAスタッフと一緒に機関誌「Commons Press」を出版、『異文化への覗き穴』というテーマを設けて特集記事を執筆されたことがあります。
そこで取り上げたのが、ドイツの文化施設「ゲーテ・インスティトゥート・ヴィラ鴨川」の記事でした。ドイツ語を学ぶことができ、文化交流も楽しむこともできる、ドイツの情報発信基地のような場所です。
建物内には図書館もあれば、居心地のいいカフェ「カフェ・ミュラー」もあり、すっかり常連だったという大谷先生。カフェの食事が相当美味しいなんて、要チェックですね。
そんな思い出話を振り返りながら、大谷先生のお話は続きます。大学生活を送っていると面白くないこともあるでしょう。人間関係がうまくいかず楽しくないこともあるでしょう。そういう時、閉じこもってSNSをするだけでなく、外の空気を吸って美味しいものを味わいながら、身近な異文化を体験してみてはどうでしょうか。
異文化を体験することは、自分自身を客観視するきっかけともなり、「こんな価値観を持っているんだ」といつもと異なる自分像が見えてくるものです。異文化を手掛かりに、新たな気づきを得てみてはいかがでしょうか。大学はみんなに開かれた場所なので、いつでも戻ってきてくれたらうれしいです。
<質疑応答から>
後半は質疑応答です。その一部をご紹介します。
Q1 社会人から大学に戻る時、経済面などで迷いはなかったですか。
A1 もちろん楽ではないです。周囲の理解も当初は難しかったですが、将来的な計画を話すことで賛成してくれるようになりました。楽ではありませんが楽しかったです。楽なことイコール楽しいことではなく、苦しくても楽しいことはあるものです。大変なことのほうが記憶に焼きついて、何年経っても思い出す。楽するだけが人生ではなく、大変でもやりたいことをする方が、死ぬ時に後悔しないと思います。
Q2 留学する際、大切にしていることはありますか。
A2 留学先の住む場所を好きになること。カルチャーショックの中で好きなもの、楽しいものを見つけるといい。ドイツはとても寒くて、憂鬱な気分になる人も多い。楽しめるものを育てる感覚を大切にすることです。
Q3 大学に来る意味がわかならなくなる時があります。大学の授業に興味・関心を持つことができない場合、どうすれば楽しめるのでしょうか。
A3 自分の趣味や興味からアプローチすることが大事です。例えばコーヒーが好きなら、その歴史を書店で調べたり、関連する授業に結び付けたりと、そうした取り組みで徐々に楽しんでいくことができます。単位にならなくても、固く考えずに聴講しに行くのも面白いのではないでしょうか。
Q4 異文化体験のほかに、大学生のうちにやっておくべきことはありますか。
A4 親友を探すことです。何でも話すことのできる人が見つかれば、それだけで大学4年間来ている意味があるのではないでしょうか。
Q5 異文化に触れるきっかけや場所をどのように探せばいいのでしょうか。
A5 外国の映画を見るのも、一つの異文化への覗き穴です。映画の中で当然とされている振る舞いを日本人の私たちが見ると、不思議に思ったり、素晴らしいという気づきがあったりするものです。学内での日本語ボランティアも、外国の方と直接会って喋る、外国の文化に触れるきっかけです。
<おわりに>
今回はさまざまな不安を抱える皆さんに向けて、「ドイツにまつわる異文化の覗き穴」というユニークな視点から、ドイツとの意外な接点から生活を楽しむ術についてお話を伺いました。悩みに真正面からぶつかり道に迷う、とても多感な大学時代。異文化体験で自身を見つめ直すことの大切さに、目から鱗の落ちるような思いでした。
それでは次回のコモンズカフェをお楽しみに。
(文章:岩﨑友明 アカデミック・インストラクター)
[付記:今回の記録はテープ起こしをしてくださった方のお力で作成することができました]