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COMMONS CAFE <コモンズカフェ>

開催日:2014年12月01日

[第9回]同志社大学 経済学部 西村卓「京都の持つ重層性-伝統職人のまち、学生のまち」

第9回 コモンズ・カフェ開催記録

<はじめに>

 2014年12月1日に第9回コモンズ・カフェが開催されました。

経済学部西村卓先生_1 今回は、同志社大学経済学部教授の西村卓先生をお招きし、「京都の持つ重層性-伝統職人のまち、学生のまち」と題してお話いただきました。当日は、学生7名、ホスト役・書記役2名の9名(+スタッフ)の参加がありました。

 西村先生のご専門は農業史と都市史です。また、京都については伝統職人に焦点をあてたフィールドワークを行っていらっしゃいます。もともとのご専門は近代の農業史であり、学生とともに町役場へ赴き、史料を整理のうえ解読するというご専門に基づいたゼミ運営をしていらっしゃいました。しかし、課題に取り組む学生の声に耳を傾けているうちに京都という街へも視野を広げていかれました。

 まず先生の自己紹介ということで、最近の研究について触れられました。昭和13年のある市内の豆腐屋さんの日記を通して京都の家族と地域社会の姿を論文で描かれました。昭和13年(1938年)といえば日中戦争2年目のことです。政治史的に見れば、当時の日本軍は破竹の勢いということで、民衆は熱狂に包まれていたと考えられます。ですが、当時の日記を紐解いてみると、「出兵した家族の無事を願う」との記述がみられました。家族思いの冷静な一面を垣間見ることができます。この記述(政治の趨勢とは異なる「普通のひとびと」の日常の姿)に出会ったとき、先生はこの論文を書くことを決心されたそうです。このように、先生はフィールドそのものから当時の世相を紡いでいく、という研究をされているそうです。

<職住一体の街=京都>

経済学部西村卓先生_2 次に今回のタイトルについて、お話されました。まずは京都の街のありかたについて、でした。「京都(洛中)」と言えば祇園・舞子・神社仏閣…などのステレオタイプな理解があります。この単語を言えば、多くの人に共感されやすいものですし、観光資源としても重要です。しかし、京都の特性はそれだけではないのだと先生は聞き手である私たちに問いかけます。京都の町のありかたに目を向けてみると、その特性は職住一体の町とも表現できるのではないかということです。つまり、仕事をしながら町内自治が形成されているのです。しかしながら、こうした町のありかたは、近代そして現代に移行するにつれて、崩れつつあります。例えばビジネス街。昼間は活気があっても、夜になると通りは寂しくなってしまいます。昔の職住一体の町であれば、このようなことは起こりません。近代、現代になり、住むところと働くところが一致しなくなったため、京都の特性が変化しつつあるのではないか…このような問いかけを先生は我々に投げかけてくれました。

 例えば手洗水町を事例にそういった町の姿についてお話がありました。この町では市電開通のために道路が拡張され、近代化が推進されました。ただし、町の真ん中に市電を通してしまったため、町が2つに分断されてしまい、分かれてしまったエリア内での地域コミュニティ・住民交流が疎遠になってしまいました。近代化の推進が住民コミュニティを破壊した事例といっていいでしょう。

<京都職人気質>

経済学部西村卓先生_3 京都の職人について、先生のご経験をお話くださいました。ある老舗店主は、先生からの依頼に対し、「考えておきます」と返答されました。先生はその言葉を受け取って、後日、回答を確認したところ、「考えておきます」=「お断りします」という意味だと、その店主から教えてもらいました。自分は何も知らず、店主にたしなめられてしまったというエピソードで笑いを誘ったあと、これは京都の「本音を隠しながら拒否する文化」のあらわれなのだと指摘します(そういえば、「坊っちゃんピアノ上手くなりはったなあ」というのは「あんたんところの子供の騒音がひどい」という意味だそうですね(笑))。

 こうした京都的気質は、実は歴史的に形成されたものなのです。長年、首都であった京都では「玉」(天皇による権威の付与)の取り合いにより、権力の移り変わりが激しかったのです。特に幕末期には、体制側についていたとしても、明日その体制がどうなるかわからない、とても不安定な日々を過ごしていました。旗幟を鮮明にした場合、次の日体制が変化したとしたら、犯罪人として処罰されてしまうかもしれない。自らの商売が、この先どう転ぶかわからない(もしかしたら、明日から仕事ができなくなってしまう)、そういう暮らしを経ることによって、人びとの間に「本音を隠して趨勢をみる姿勢」が醸成されたのではないかといいます。

<職人同士のコラボ>

経済学部西村卓先生_4 お話の最後に先生ご自身による職人同士のコラボレーション企画のお話へと進みます。ある折、先生は京都の老舗企業の共同による企画を立ち上げました。お互いの良さを取り入れて新しい事業を起こそうではないかと、先生の思いがありました。先生が老舗企業の間に入り、社長さんからの同意を得ることができました。シンポジウム、展示会、そして商品化を通じた職人ネットワークの再構築を目指す大きな企画です。

 展示会(大英博物館の近くのギャラリーを借りて開催)までは、成功裏に終わったものの、最終的な商品化の段になってお互いの価値観(=美学)がぶつかり合ってしまい、その後の進展には至りませんでした。なぜ価値観がぶつかるかというと、それは「職人」同士のコラボレーションだからです。いわゆる「ビジネス」を優先させるのであれば、美学に目を瞑るのは、場合によっては賢い選択肢です。しかし職人同士、美学同士となるとそうはいきません。残念ながら、この老舗同士の「夢のコラボレーション」は店頭に並ぶことはありませんでした。ちなみに、先生のお宅にはその幻の商品がいくつか眠っているそうです。この経験を通じて先生は職人同士のネットワークの再構築の試みの難しさを痛感したといいます。しかし古いものを大事にすることだけが美学ではありません。「和傘」を作っていた職人が、ランプのシェードに和傘を使えることに気づいたといいます。先生はある百貨店の天井で、そのシェードに使われている和傘を発見しました。そこで興奮した先生、天井の写真を大量に撮影していたら、店の商品を勝手に撮影されたと勘違いした店員に叱られた、と笑いを交えて喋っておられました。美学を大事にし、革新するところは革新する。しかし革新であっても昔の良い所は残す。これも京都の職人の特性なのかもしれません。

<公道を使うのではなく、道を通らせていただいているという意識を>

 お話も終わり、その後、学生による質問の時間となりました。参加者の出身地域を聞きながら、京都との相違について多くの質問が出されました。先生は次々とお答えになります(詳細は割愛しました)。

 ここでは、私たちに馴染のある「今出川キャンパス~新町キャンパスまでの通り」の話が盛り上がりましたので、報告します。これは京都の「町」の形成と深く関わってきます。過去の京都における町の形成は非常に特徴的でした。普通、我々は、道路や線路、あるいは川といった線に囲まれた部分を「町」と考えがちですが、京都の「町」は、向かい合わせの居住者から成立するものなのです。これを「両側町」と言います。すなわち、町のなかに通る「道」は「公道」という性質よりも、その町の「広場」という性質を持つのです(コモンズですね!)。たびたび本学関係者のなかで話題になる「今出川キャンパス~新町キャンパスまでの通り」は、実は、両側町の「広場」であり、それを通る学生は、両側町の広場を使わせてもらっている、ということに(歴史的には)なるのです。つまり、西村先生のご経験と調査によれば、あの通りは「公道」ではないのです。確かに、法律上は誰もが通る道なので「公道」であることは間違いないのですが、この通りは、数百年にわたる歴史をもっており、代々そこの地域住民が使用する「町の広場としての通り」であると意識することが大事です。私たち(主に学生)は、わずか百数十年前にできたキャンパスへの移動をするために、そこを通らせて貰っているという意識を持つべきなのです。新幹線の移動販売の売り子さんは、車両に入る時と出る時に必ず一礼するだろう、と先生は半ば冗談、半ば本気におっしゃいます。もしもこうした見方を私たちが持つことができれば、地域住民とのトラブルも自然と減っていくはずです。首都として1000年以上の歴史を持つ文化と重みを、お互いが尊重することで、回避できるトラブルもあるということでした。

 両側町の「広場」を無理やり拡張してしまったものの一つに、冒頭の手洗水町の事例があります。両側町のなかの道を拡張し、市電を通したのはいいものの、電車は向かい合わせの居住者を「分断」します。先生は、近代化による住民コミュニティの変化を例にして、行政目線だけではなく住民目線をもつことが、京都を理解する上で重要なのだと指摘されました。本日のまとめは、ホスト役のLA(ラーニング・アシスタント)さんに的確にしていただきまして、盛況のうちに閉会となりました。

 用意していた1時間があっという間に終わり、このあと延長もしくは、後日「第2部」を開催したほうがよいのではないかというぐらい充実したコモンズ・カフェとなりました。

 記録だけではお伝えきれない臨場感があるのがコモンズ・カフェです。次回以降も、学内外のゲストの先生をお招きします。引き続き、皆様のご参加をお待ちしております。

(文章:LA大谷)

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