Date:2014.01.23
[第3回]同志社大学 文学部 勝山貴之「ミュージカルへの招待」
2014年1月23日木曜日、第三回コモンズカフェ「ミュージカルへの招待」が開催されました。
今回のコモンズカフェでは文学部の勝山貴之先生をお招きし、「ミュージカルへの招待」というタイトルでお話いただきました。前半30分では勝山先生よりミュージカルについてお話しいただき、後半30分は参加者からの質疑応答を受けるという形で進むことになりました。
まず、勝山先生の「みなさんはミュージカル好きですか?」という呼びかけから始まりました。先生の目の前にはたくさんのミュージカルのパンフレットが置かれています。先生の専門がシェイクスピアであり、ミュージカルは若いころから好きであったという自己紹介とともに、パンフレットを回しながら早速、さまざまなミュージカルのエピソードを話してくださいました。先生がご自身の席の後ろにおいていた袋の中から、たくさんのCDを出しました。参加者がその量にまず驚きます。「僕はマニアだからね。同じミュージカルのいろんなバージョンのCDを持ってて、下手な人のバージョンも持ってるんだ。」とおっしゃり、一同が笑います。キャスト違い、アレンジ違いなど、種類は多岐にわたるので、何度も同じ公演を観に行くのはもちろん、家でそれぞれ聴き比べるのも楽しいとのことです。
ミュージカル公演には通常、昼公演のマチネと夜公演のソワレがあり、メインのキャストは通常ソワレに出演します。マチネではアンダースタディのキャストと言って、「補欠」の役者が登場することもあります。本来ならソワレに行く人が多いかもしれませんが、実はマチネにもマチネならではの楽しみ方がある、ということで、とっておきの楽しみ方を教えてくださいました。ほかにも、芝居は生ものだから、時には信じられないようなミスにでくわすこともあるという話をされました。セットが出てくるのが早すぎたり、感動的なシーンでヒーローが転んでしまったりということが、劇団四季ミュージカルでもあるそうです。しかしそういった失敗からの立直りの早さからプロフェッショナルとはいかなるものかがわかるとのことでした。
ミュージカルを観劇する際に、どこに座るか、ということも大事ですよね。勝山先生は、色んな席でご覧になるそうですが、やはり一番良い席と言われているのが、真ん中あたりの10~15列目とのこと。ですが、その他の席にも穴場があって、参加者はその話を聞きながら熱心にメモをとっていました。
その後も、具体的なミュージカルの名前を挙げて、パンフレットを回しながらさまざまなエピソードをお話ししてくださいました。印象的だったのは、『ジーザス・クライスト・スーパースター』で、もともとレコードだけがあり、曲に人気が出て繰り返し演奏されていく中で、徐々に芝居がかった演奏がされるようになり、ついに演技がつき、ミュージカルとなった作品についてのお話です。このようなミュージカルの成り立ちは中世イギリスでの演劇の誕生の仕方にとても似ていて、中世イギリスでは、教会で話されていた聖書の物語に徐々に演技がつけられるようになり、演劇となっていったことも多かったそうです。
ほかにも、ヒッピーを題材にした過激なミュージカル『ヘアー』や、ファンタジーで作ってみようということから誕生したミュージカル『ウィキッド』が、結果的に9.11のテロの後にアメリカでおこったイスラム人への差別に対する問いをなげかけることになったという話などもされました。ミュージカルは「時代を映す鏡」とよく言われますが、それだけでなく、ミュージカルの方から時代に働きかけ、警告し、正しい価値を教えたり、時代を引っ張ったりすることもあるよ、という言葉とともに、前半戦が終了しました。
休憩中にも話が尽きず、シェイクスピアを歌舞伎アレンジにした作品などの紹介や、東西の演劇の違いについて盛り上がりました。後半の質疑応答でも話に花が咲きます。「先生は年間何本ミュージカルをご覧になるのですか?」という質問に対して勝山先生は、とある研究旅行のスケジュールの際の観覧数を教えてくださったのですが、その仰天研究生活には、ただただ一同は感心するばかり。ほかにも、日本でのみならず海外でもたくさんミュージカルをご覧になった先生ならではの、海外でミュージカルを楽しむ際のヒントも教えてくださいました。
次の質問では、「春にディズニーのアニメ原作のミュージカルを観に行く予定ですが、楽しみ方を教えてください。」というものがありましたが、ここで、勝山先生がそのディズニー・アニメ映画の興味深い話をされました。それは、そこのプリンセス映画をたどれば、その時々のアメリカ社会の女性の憧れのスタイルがわかるということでした。たとえば最初のころに制作されたものは、アメリカで「ハウスワイフ(主婦)」を評価する時代だったため、登場するお姫様たちは受け身で、王子様が来てくれるのを待つだけでした。しかし、時代が進み、ウーマン・リブが確立し、その世代の女性が母親になった時に、受け身の女性を描いた映画は子どもに見せても共感できないという問題が発生したのです。そこで、自分の力で運命を切り開くあたらしいタイプのお姫様が創られたのです。それが、質問者が春に観に行く予定であるといったミュージカルの原作映画だったのです。
一同が納得したところで次の質問がなされます。「時代に沿うものや新しいミュージカルはあると思いますが、いまだにずっと昔の形を保持しているような、オールドファッションなミュージカルはないのですか?」この質問については、どんなに昔の演目だったとしても、根幹は変わらないかもしれないが、観る人も、作る人も少しずつ変わっていくため、変わらないミュージカルはないとのお答えでした。先生は、400年前のシェイクスピアの芝居が、当時どのように観られていたか、ということを研究しているとのことですが、舞台は生ものだから、必ずその時代に左右されるし、必ず変わるものであるとのことでした。しかし、そこがミュージカルの面白いところである、ともおっしゃいます。現在では名作として歴史に名を残している、元々無名の人が作った資本の入らないミュージカルが時おり思いがけず大ヒットすることによって、時代に影響を与え、社会を変えることがある。400年前のシェイクスピアの芝居だって、当時はそのように時代を映しつつ社会を変える力を持っていたからこそ、今日まで愛され続けているのではないか、というお話で結びとなりました。
コモンズカフェ終了後も勝山先生のまわりには半分以上の学生が残って、さまざまな質問をしており、皆さんの熱狂ぶりに感激する1時間強となりました。
(文章:弥園)