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COMMONS CAFE

Date:2017.01.13

[第18回]同志社大学 政策学部教授 大島佳代子「18歳からの選挙権」

第18回コモンズカフェ開催記録

<はじめに>

 今回のコモンズカフェは政策学部の大島先生をお呼びしました。先生は憲法をご専門とするとともに、ラーニング・コモンズを運営している本センター長でもあります。

 多岐にわたる先生のご研究のなかから、18歳に引き下げられた選挙権に焦点を絞ってお話しいただきました。

<18歳からの選挙権の論点>>

大島先生01 18歳からの選挙権といっても範囲が非常に広いので、2015年に文部科学省が出した「高等学校における政治的教養の教育と高等学校等の生徒による政治的活動等について(通知)」をとりあげていただきました。平たくいうと「生徒の政治的活動の指導には留意してね」という学校や都道府県に向けた通知です。

 理由は3つあります。

① 学校は政治的中立性を求められている
② 高校は生徒を教育する公的施設であり、政治より教育を重視せよ
③ 学校はその設置目的を達成するために、ある程度生徒を規律する権限を持っている

 そこから学校における政治的活動については、一定の制限がかかっても仕方がない、という通知が出ています。これは直接生徒に通知したものではなく、各教育委員会や各都道府県に向けた通知でした。つまり、背景の「学校」に対する通知という形をとっています。

 大島先生はここでいきなり爆弾を投げ込みます。「これって憲法違反ではないか?と思っても、やはり学校は従わざるを得ない」「何が政治的活動なのか、この通知では非常にアバウトだ」。しかし、通知自体を憲法違反だといって争う方法は現在の日本では存在しないのだそうです。

<政治的活動とは>

 政治的活動とは何か。様々な政治的活動があります。なんだかよく分かりません。様々な政治的活動が考えられます。原発再稼働に反対する政治的活動でしょうか。沖縄でオスプレイに反対する動きでしょうか。食物の輸入関税に関するデモでしょうか。通知ではそれを定義しているのですが、この定義が非常にあいまいなのです。つまり、政治的活動として何を制限したらいいのか、学校現場はこれでは困ることが想定されます。しかし後から文科省から文句を言われないためにも、学校側が過剰に規制をかけることは容易に目に浮かびます。

 何か後から言われたら困る、と思って勝手に自粛するケースは、校則などでも見当たります。たとえば、過去、さまざまな校則が問題視されてきました。前髪は眉毛にかかってはならない、スカートは膝下なんとか…。それに対しての疑問もあり、では生徒自身に校則を作らせてみようとすると「より厳しい/細かい校則」になったのだそうです(分かる気がしますね)。

 憲法学的な視点から、政治的活動を規制するにはどういう理路があるのか。もちろん、未成年であることから規制は正当化できる可能性があります。ただし、18歳に選挙権が引き下げられたことから「なぜ法律で認められた有権者の権利を、校則で規制できるのか?」という疑問・矛盾が生まれます。また、教育基本法のなかでも「良識ある公民として必要な政治的教養は、教育上尊重されなければならない」とあります。ただし「法律に定める学校は、特定の政党を支持し、又はこれに反対するための政治教育その他政治的活動をしてはならない」ともあります(どちらも教育基本法第14条第1項、第2項)。

<学校での政治的活動>

 「学校は教育の場なのだから、一定の範囲内で政治的活動を制限することはできるといえるでしょう。しかし、一律禁止ということは非常に難しいのではないのでしょうか」と大島先生は仰います。となると、具体的状況に応じた規制を検討する必要が出てきますが、たとえば授業のときはどうか、文化祭のときはどうか、放課後といった休み時間はどうか……。個々の事例を検討していくと、やはり禁止できないケースは出現してきます。

大島先生02 文科省は一律で禁止できるという判断をしていますが、憲法学者の目からすると違憲と判断せざるを得ないと大島先生はいいます。また、校則を改正してデモに参加することを規制している県も出てきております。また、事前にデモ参加の届け出を義務づける事例も複数、出ています。

 しかし、届け出制というのは表現の自由の観点からするとかなり問題があります。事前規制に繋がるからです。事後規制よりも事前規制のほうが委縮効果がきわめて大きいため(言い換えると、届け出たときに「受験生がデモになんか参加している場合か」と先生に言われて、デモに行くのをやめてしまうなど)、表現の自由を侵害する度合いがきわめて高いと憲法学では考えます。ほか、事前届け出をさせることで生徒の安全を確保するという理屈であっても、届け出させる内容によってはプライバシーの問題や思想信条の自由との兼ね合いも出てきます。

 規制をする側からは、一律規制は楽ですが、「憲法上許されないだけでなく、主権者教育の観点からも問題があるのでしょう」ということで、大島先生のお話の結びとなりました。

<質疑応答から>

  ここからは質疑応答です。コモンズカフェはさまざまな学部から参加者が集まりますので、「そもそも?」という議論もたくさん飛び出しました。

 そもそも選挙年齢は何歳なの?という話には、まず日本の歴史の話が関わってきます。しかし「諸外国の選挙権年齢を見ていくと、その国の徴兵年齢と関連している」というご発言(記録者はこれを聞いて、あっ!と思いました)。国のための国防の義務を果たすということと、国政への参加は表裏一体であることを踏まえて、今の政治の動きとをセットで考えてみるとどうですか?という示唆をいただきました(一同ため息)。

 そもそもなぜ18歳の選挙権の引き下げが行われたのか?という問いに対し、人口ピラミッドからすると若年層が減っていること、また、高齢者ほど投票率が高いことがまずあります。さらに、中央の一票のほうが地方よりも価値が少ない「一票の格差」の問題もあります。つまり、中央の若者の意見は、地方の高齢者の意見よりも立法府に届きにくい。それは国政上問題があり、引き下げる……というのはそもそも論として成立します。それに対し「となると、今の選挙で当選した人たちは、高齢者の投票によって当選したわけですよね。しかし、それと逆行するような18歳の選挙権の引き下げをする理由が見えてこないんです。支えて貰っている高齢者を無碍にするようで、矛盾しているように見えるんで分からないんです」という参加者からの鋭い質問に対し「現在の、各年齢層による支持政党を考えてみると…?そこからさらにこのように考えてみると……?」(この答えは、コモンズカフェの参加者だけの特権です)。

 政治的活動について、憲法では表現の自由を保障していますよね。しかし、ヘイトスピーチ規制の議論はどうできるのか?という入り組んだ質問に対しては、日本の憲法はアメリカの影響を受けており、アメリカ自体も非常に表現の自由を尊重する国であるといいます。ただし、アメリカにおける表現の自由は「政治的な表現の自由」であり、わいせつな表現やヘイトスピーチは一定の条件下で規制しても憲法違反ではないとされています。他方、日本の場合は戦前の治安維持法などの反省から表現の自由の保障の範囲内にヘイトスピーチやわいせつな表現も入ってきてしまう。なので、歴史的経緯もあり非常に難しい……という特殊事情があるとのこと。また、表現の自由に関する規制には往々にして罰則が伴います。しかし、「何」が罰則に当たる行為なのか明確にしないと、そもそも規制そのものが不可能です。また、一方で権力者サイドが「これはしゃべってもよい」、「これはNG」と決めることは、やはり戦前に回帰してしまいます。非常に線引きが難しく「そういう複雑な事情があるので,憲法学者でも割り切ることが難しいんです」という話をいただきました。

大島先生03 これだけに限らずオフレコ話も山のように飛び出す90分でした(記録にほとほと苦労しました……)。にしても、法学を研究する人とは、このようにロジカルなのか(これをこう考えると、こうなる、となると、こうなる。そうすると、これとひっかかる)……、と舌を巻く90分でした。また、とても記録に残せない(残してはいけない、こちらが自己規制をしないといけないような)お話もいっぱいあり、苦笑やら腑に落ちることやら、やはり、対面でトークをする機会は重要なのだという意を新たにするひとときでした。

<おわりに>

 ラーニング・コモンズとは学びの共有地です。理念としては崇高で重要ですが、実際に運営側の立場にしてみると、学びを阻害する行為に対し、どう規制をかけてよいのか?という問題にぶつかることもしばしばです。しかしコモンズという新しい学びの場、それを運営する当センター長に(偶然とはいえ)表現の自由といったことを丹念に検討されている先生がおられるというのは、本当に僥倖なのだという個人的な感覚もありました。

(構成と文章:岡部晋典[アカデミックインストラクター])

 次回のコモンズカフェでは、文学部の植木朝子先生をお呼びします。次回もお楽しみに。

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